正気なのかと思われるかもしれませんが、ここはあえて反対意見を述べることにします。インターネットとは、元々は実名社会だったのです。
そもそも、初期のインターネットはほぼ完全に実名社会でした。私自身がインターネットを利用し始めたのは1990年代前半の、まだ商利用が解禁されてない時代で、大学や企業の研究室を結ぶ学術ネットワークとして使われていました。電子メールやネットニュースでは主に学術情報などの情報交換がされていたわけですが、本文の末尾には自分の学校名や会社名、そして所属と実名を必ず書くのが常識でした。
これは、PC-VANやNIFTY-Serve、そして草の根ネットなどのパソコン通信の文化とは対照的でした。パソコン通信では実名が使われることもありますが、多くはハンドルと呼ぶ筆名を使うのが一般的でした。とは言え、実名をきちんと公開していた人も決して少なくはありませんでした。
確かに、当時のインターネットでも実名を隠してハンドルを使うことは可能でした。しかしそういう人はごく少数派でしたし、「何だこのパソコン通信上がりのお子ちゃまが」と白眼視されることもあったといいます。
ところが、かつてインターネットで実名を使い続けてきた人でも、今は実名非公開主義に切り替えた人も多いと思われます。残念なことに、世の中、善人だけではありません。これだけインターネット人口が増えた今、いつ嫌がらせを受けるかわかりません、いや実際にあり得ます。それもスクリーンの世界で完結するとは限りません。自分の身近にいる、インターネットを使ってない人から、「インターネットを使っている人からあなたに関するこんな悪い噂を聞いた」と、根も葉もない中傷を受けて初めて気付くことだって、実際にあります。
とは言え、このような事態は、たまにしかありませんし、自分でも気を付ければある程度の予防はできます。その一つが、自分の実名や所属などを非公開にするということなのです。つまり、何か心がやましいために匿名主義というのでは決してなく、嫌がらせを防ぐために匿名主義という人が多いのです。
インターネット外でも似たような例があります。今は自分の電話番号を電話帳に載せないという人や、番号非通知で電話を掛ける人も多いですが、これも心がやましいからではなく、嫌がらせを防ぐためです。四十年くらい前の漫画家は、自分の住所を公開している人も多くて、漫画家に直接ファンレターを送ったり、実際に家にお邪魔したりとできたのですが、今ではほとんどいません。これもストーカー並にしつこい一部の悪質ファンがいるために、やむなく非公開にしているのです。例外として、みつはしちかこさんの「小さな恋のものがたり」(チッチとサリー)には今でもあとがきに住所が載っていますが、そんな古き良き時代があったのだと思い起こさせてくれます。
匿名とは、必ずしも心がやましい証拠ではありません。実名主義にしたいのは山々なのだけど、嫌がらせ対策のために泣く泣く匿名主義にしなければならないと感じる人が、かなり多いのです。一方、嫌がらせの危険をある程度我慢してでも、みんなの利便を図る方を優先して、実名主義を貫いている人だって、まだ大勢います。
最後に、いくら匿名の悪人がネット上で悪さをしようが、警察の手にかかれば、身元もいとも簡単に割れてしまいます。インターネットの「匿名性」にも限度が必ずあることを理解してください。
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